相続登記時の原本還付手続きを解説!方法/メリット/返却してもらえる書類

1.相続登記時の原本還付手続きとは
相続登記の申請は、相続する不動産の所在地を管轄する法務局に申請書を提出し、その内容を登記官が精査して問題なければ登記手続きが完了します。登記官が申請書を精査するために、申請書の内容を裏付ける書類を同時に提出します。
登記申請に必要な書類として、たとえば戸籍謄本や遺産分割協議書、遺言書などが挙げられます。これらの書類は必ず原本を提出しなければなりません。コピーを提出することはできません。原本を登記官に確認してもらう必要があります。
提出した原本は法務局で保管されますが、遺産分割協議書などの重要な書類は手元に置くことを希望する方も多いです。また、戸籍の原本は、登記以外にも銀行預金や保険の解約手続きにも使用するため、法務局で保管されるとそれらの手続に使用できなくなります。
手元に置いておきたい原本や他の手続での使用を希望する原本は、原本還付の手続きをすることにより、返却してもらうことができます。ここでは原本還付手続きの方法やメリット、注意点などを解説します。
1-1.相続登記の申請にはどんな書類を添付するのか?
まず、相続登記の申請に必要な書類について簡単に説明します。
相続登記の際に添付する書類は主に次の9点です。
②被相続人の最後の住所を証明する書類
(住民票の除票の写しまたは戸籍の附票)
③法定相続人全員の戸籍と、不動産を取得する相続人の現在の住所を証明する書類
(住民票の写しまたは戸籍の附票)
④遺産分割協議書
⑤遺産分割協議書に押印した相続人全員の印鑑証明書
⑥遺言書
⑦相続関係説明図
⑧委任状 ⑨固定資産評価証明書
①~③については相続人の状況により更に戸籍等が必要になる場合もあります。例えば夫婦と子供一人のケースにおいて、被相続人である夫が亡くなった後、妻が亡くなった場合には、妻の出生から被相続人と婚姻するまでの期間に、妻について作成された戸籍も必要となります。なぜなら、この妻には他にも子がいる可能性があり、実際に他にも子がいた場合は、その子も相続人となるからです。
(婚姻後は夫と同じ戸籍に入るため重複するので必要ありません)
また、被相続人の養子が被相続人の死亡後に亡くなっているような場合は、上記と同様の理由により、その養子が出生してから被相続人と養子縁組するまでの期間の戸籍が必要となります。
④と⑤は相続人の間で遺産分割協議を行ったときに必要になります。遺産分割協議書への押印は実印でする必要があり、印鑑証明書を添付します。
⑥は被相続人が遺言を遺している場合に必要になります。公正証書遺言や法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言であれば裁判所の検認は必要ありませんが、保管制度を利用していない自筆証書遺言の場合は裁判所の検認が必要となるので、検認済証明書も添付することになります。
⑦については本記事の後半で説明します。
⑧は司法書士や、相続人のうちの一人に相続登記を依頼する場合などに必要になります。本来、相続登記は相続人が共同で申請するものですが、相続人のうちの一人や司法書士などに委任することにより、委任を受けた者から登記を申請することができます。
⑨は不動産の価額から登録免許税を計算するために添付します。固定資産評価証明書についてはコピーのみの提出でもよいとされています。
この場合、原本還付を請求する必要はありません。
1-2.相続登記時の原本還付手続きで返却してもらえる書類
添付書類のうち、①~③の戸籍や住民票の写し、④遺産分割協議書、⑤印鑑証明書、⑥遺言書については原本還付手続きを行うことにより返却してもらうことができます。
2.相続登記時に原本還付手続きを行うメリット
相続登記時に原本還付手続きを行うメリットは二つあります。
一つは大切な証拠書類を手元に残すこと、もう一つは証明書取得のための手間・費用を削減できることです。
2-1.①大切な証拠書類を手元に残すことができる
遺産分割協議書や遺言書は、「どの相続人がどの遺産を取得したか」といった、財産の帰属を示す大切な証拠書類です。これらの証拠書類を手元に置くことは、後に相続に関するトラブルや訴訟に巻き込まれた際の力強い保険となります。
2-2.②証明書取得のための手間・費用を削減できる
被相続人の預貯金の解約、保険金の受領など、被相続人については相続登記以外にも多くの手続きがあり、各手続で必ず戸籍の原本の提出を要求されます。全ての手続で原本を取得し提出すると、取得する戸籍も膨大な数になり、費用がかさみ、また戸籍取得の手間も増えます。
原本還付を受けることにより一度の戸籍取得で全ての手続きを終えることができます。
なお、多くの手続で戸籍の提出が必要と予想される場合(複数の金融機関に預金口座がある等)、法定相続情報証明制度を利用することで効率的に手続きを進めることができます。詳しくは司法書士等の専門家にご相談ください。
2-2-1.相続登記時の書類取得にかかる印紙代・手数料
戸籍謄本の取得手数料はおおむね以下のとおりです。
戸籍謄本(抄本) | 450円 |
除籍謄本(抄本)・改製原戸籍謄本(抄本) | 750円 |
戸籍の附票 | 300円 |
住民票の写し | 300円 |
上記はあくまで一例であり、全国一律である戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本の金額を除いては、自治体によって手数料が変わります。詳しくは各自治体のホームページをご参照ください。被相続人の転籍や相続人の婚姻などにより、本籍地が取得者の住所から遠い場合は、郵送で戸籍や戸籍の附票を請求することもできます。
郵送請求をする際には上記の手数料と同額の郵便小為替を封書で送付します。郵便小為替は50円から1,000円まで12種の金種がありますが、どの金種も100円の手数料がかかります。
被相続人の出生から死亡までの期間に作製された戸籍を取得すると、一般的に2~4通の除籍謄本が出てきます。転籍や結婚の度に戸籍が新しく作製されるため、ある人の一生が一枚の戸籍にすべて記載されているということはまずありません。
また法律の改正により新しく戸籍ができることもあります。戦後、民法が改正され戦前の家督相続制度などが改められたことにより昭和23年に戸籍が編成されました。さらに平成6年には戸籍事務のコンピュータ化に伴い新しい戸籍が編成されています。
戦前に出生し、平成6年以降に亡くなった方だと、その間に2回戸籍が編成されているので、最低でも3通の戸籍が出てくることになります。そのため、被相続人の戸籍を取得するだけでも3,000円近くのお金がかかります。
このような費用や手間を省くためにも、相続登記の際には、原本還付手続を取っていただくことをお勧めします。
3.相続登記時の原本還付手続きの方法
ここでは相続登記時の原本還付手続きの基本的な流れと、相続関係説明図を提出する場合の原本還付手続きについて説明します。
3-1.相続登記時の原本還付手続きの基本的な流れ
相続登記時の添付書類の原本を還付請求するには、次のような手順で行います。
①申請書に添付して提出する全ての書類の原本のコピーを取る ②コピーの端に『右は原本と相違ありません 申請人名』と記載し、押印する。(下図参照)

このときの押印は申請書に押印した印鑑(申請印)で押印します。
また、コピーが複数の頁にまたがるときは各ページに割印が必要です。
3-2.相続関係説明図を提出する場合の原本還付手続き
戸籍について原本還付請求する場合にも、全ての原本のコピーの提出が必要ですが、相続人が多いときには戸籍の枚数が膨大になります。その全てについて戸籍のコピーを取ることは大きな手間です。
そのため、戸籍全てのコピーに代わるものとして、相続関係説明図を添付することが認められています。相続関係説明図とは、被相続人と相続人を家系図の形で示し、戸籍に記載された家族の相続関係の内容を一目で確認できるようにしたものです。
3-2-1.相続関係説明図のサンプル・書き方

①タイトルを入れます。『被相続人 名前 相続関係説明図』と記載します。
②被相続人の最後の本籍、最後の住所、登記簿上の住所を、戸籍謄本や住民票、登記簿を参考に記入します。最後の住所と登記簿上の住所に違いがある場合は住所の変遷を示した書類を添付しなければなりません。戸籍の附票がこの書類にあたります。
③被相続人の出生日、死亡日、被相続人の表示、続柄、氏名を記入します。
④婚姻については二重線で表現します。親子関係を示す線は一重線で表現します。
⑤相続人の住所、出生日、続柄、氏名、相続人の表示を記入します。
離婚した配偶者は相続人ではないですが、子供がいる場合には親子関係を示すため記載します。その場合は離婚した妻の住所は記載せず、離婚年月日を記載します。
上記の例は法定相続の場合ですが、遺産分割や遺言書などにより法定相続とは違う分割方法となった場合は、相続した人のみ『相続人』と記載します。その他の相続を受けない人については『分割』と記載します。
また、相続関係説明図に相続割合を記載する必要はありません。
4.相続登記時の原本還付手続きの注意点
最後に、原本還付手続きの注意点について解説します。
4-1.①相続登記完了後に原本を返却してもらえる
登記申請時に提出した原本は、相続登記が完了するまで返却されません。登記終了後、登記識別情報通知書や登記完了証とともに返却されます。登記申請中は手元に原本が無い状態となるので、法務局から書類の訂正を求められたとき、原本を確認できず困ることがあります。
控えとしてコピーかPDFファイル等に変換したものを置いておくとよいでしょう。
4-2.②返却してもらえない書類もある
相続登記の申請を相続人の代表者や司法書士などの専門家に委任するための委任状は、この相続登記の目的のみに作成された書類であるため、原本還付の手続きを取ることはできません。
ただし、委任状の中に相続登記以外の委任事項が併記されている場合は原本還付できます。また、相続関係説明図は、戸籍を原本還付する目的で提出する書類なので、原本還付できません。
5.まとめ
原本還付の手続きを行うことで、相続に関する様々な手続の費用を抑えることができます。
相続登記や原本還付手続きについて疑問があれば相続手続き専門の司法書士法人チェスターにご相談ください。
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